受験まで5か月しかない案件

2年前に指導した生徒は、6年生の夏休みの中ごろまで、中学受験についての学習をまったくしたことのない子でした。どうしても私立中堅校に入学したいとのことでした。受験直前にそのような生徒を受け入れてくれる塾もなく、おそらくいくつか家庭教師センターに問い合わせなさっていたと思うのですが、どこからも相手にされず、最後にプロ家庭教師アプラスへたどりついた、といった経緯でしょう。

 私がこの案件を引き受ける際にご家庭にお話ししたのは、受験日まで逆算し、いつまでに何の学習を終えることができるか中長期スケジュールを立てること。5か月で通常2、3年かけてする学習をこなすのですから、はじめは無謀なチャレンジとも思えるのですが、次のような手順を示し、まずは受験勉強を開始することになりました。

①:はじめの2か月で受験校に必要な単元の基礎を完成させる。

②:①をクリアできれば家庭教師続行。できなければそこで終了。

③:続行の場合次の2か月で、標準レベルの学習を総復習。

④:③をクリアできれば家庭教師続行。できなければ終了。

⑤:続行の場合、入試までの1カ月をかけ、過去問を時間をはかり解いて、点数など集計。直しももちろん行う。

 以上のように、いつまでにあるミッションをクリアできれば次のステージに進める、といったどこかゲーム感覚といったら語弊があるかもしれませんが、無謀な賭けにはならないよう、あくまでも現実的な計画を立てることで私に指導をまかせていただくことになったのです。

私が指導したのは算数と理科。月、水、金、土。国語をもう一人の先生で担当し、火、木、土。日曜日以外は、毎日の指導です。1回の授業が2時間ちょうど。ですから塾に行くより、時間は短いのですが、その分生徒に負担させる自学をいかに充実させるかがカギでした。そのことは、何度もご家庭や生徒さんに言い含めて、無理ならストップ。できれば継続というお約束でした。

 体験授業のときに感じた、「この子ならできるかも」という予感があたっていたと確信したのがは、指導を始めて2週間ほどしたときでした。全科目とも、すべて出した宿題をこなし、しかも言われた通り、質問事項を授業までにまとめて、隙のない姿勢をくずさなかったのです。

 生徒さんの武器は記憶力。小さなころから活字になれ、一度読むとごく短時間に多くのことを記憶できる。短所は気持ちをなかなかコントローできない。計算ミスなどをすると少しパニックになり、通常でも乱雑気味な字がさらに乱雑になり、何を書いているのか判別できなくなる。焦る気持ちをどう制御させていくかが問題でした。

 日に日にいろんなことが改善させていき、基本分野の総ざらいが終了するころ、生徒さん、親御さんたちに確認いたしました。「今後、このプロジェクトを続けられますか?」

もちろん続けます!

 何よりも生徒さんの意欲は相当高く、学んだことがどんどん吸収され、まるで楽しみながら勉強しているようでした。

 さらに印象的だったのは、受験勉強をスタートした時期が遅いケースによく耳にする、「もっと早く勉強しはじめていたらよかった」といったネガティブな言葉を一切言わなかったことです。もちろんご両親は折に触れよくそうおっしゃっておられましたが、生徒さんはいたって前向き。

 始めたいから始めた。続けたいから続けたい。と正々堂々としたものだったので、指導する側もなんともいえないすっきりした気分で、すがすがしい気持ちで指導できました。

 応用に入った時点で覚悟はしていたのですが、やはり「だめ出し」にはパニックになりがちで、やんわりとミスを指摘しても、かなり動揺し、ミスを誘発する状況が続きました。それでも歯を食いしばってぐっと耐えている様子で、メンタル面のコントロールを身につける訓練も、この後ずっと入試まで続くのでした。